ミクログリア細胞が脳の環境を整える
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グリア細胞とは、脳の大部分を占める細胞だ。
モノを見聞きしたり考えたりするのは、ニューロン(神経細胞)の働きであるが、グリア細胞はその手助けをする役割を持つ。
しかしグリア細胞の役割は、21世紀になるまであまりよく分からなかった。
20世紀にはニューロンの隙間を埋め、栄養を橋渡しする役割くらいしか、役目がないと考えられていた。
しかし近年は、グリア細胞が、脳の環境を整える鍵を握っていることが分かってきた。
グリア細胞は、脳の詰め物ではなく、ニューロンと同じように連絡網を作り、複数のニューロンを同期させているらしい。
たとえばオリゴデンドロサイトは、ニューロンの軸索にミエリン鞘という形で絶縁体の働きをしているだけではない。
一つのミエリン鞘から腕を伸ばして、別のニューロンの軸索のミエリン鞘とつながり、複数のニューロンをコントロールしている。
ニューロンは電気信号でつながっているが、グリア細胞はATPや脳内物質でつながっている。
というのもこれらの細胞は元々、同じ神経幹細胞から分化している。
FABP7という「脂肪結合型タンパク7型」に、DHAが結合するととニューロンが発生し、FABP7にアラキドン酸が結合すると、アストロサイトやオリゴデンドロサイトが生まれる。
なのでニューロンとこの2つのグリア細胞は、兄弟のような関係の細胞で、役割分担をしていると言うことらしい。
3タイプのグリア細胞の役割
- アストロサイト:ニューロンへの栄養の受け渡し(ブドウ糖、ケトン体、DHA、グルタミン酸、GABA、グリシン、など)
- オリゴデンドロサイト:ニューロンの軸索の絶縁と同期
- ミクログリア:脳の免疫・白血球、
ミクログリアは、ニューロンの生死の鍵を握っている
ニューロンやアストロサイト、そしてオリゴデンドロサイトは、神経幹細胞から分化した細胞だ。
なのでニューロンとかグリア細胞とかいっても、実は似たような性質を持っている。
一方、ミクログリア細胞は、グリア細胞にまとめられているが、上の2つとは全く違う系統の細胞だ。
ミクログリアは造血幹細胞系の細胞で、白血球のように脳内の異物を貪食する。
死んだ神経細胞を掃除したりして、脳をキレイにする働きをするのだ。
しかしアルツハイマー病やパーキンソン病(レビー小体型認知症)関連の研究が進み、ミクログリアが単なる掃除屋ではなく、ニューロンの生死に関わっていることが、次第に明らかになってきた。
ミクログリアは白血球と異なり、様々なレセプタを備えていて、多種多様な物質を放出することで、ニューロンの生死をコントロールするのだ。
たとえば、ミクログリアは神経障害やストレス、感染によって活性化し炎症を引き起こす。
また、ミクログリアはニューロン同士をつなぐシナプスの間に入って切断する仕事もしており、ニューロンのネットワークを壊したりもする。
さらには神経を細胞死に導くこともある。
ところが実は、ミクログリア細胞は、インスリン様成長因子(IGF)を放出し、ニューロンを保護する仕事も持っている。
認知症は、脳の糖尿病とも呼ばれ、脳内のインスリン濃度が低いことが、原因の一つだと考えられている。
IGFはインスリンに非常に似ていて、ニューロンにエネルギーをもたらすらしい。
また認知症の鍵を握るアミロイドベータにも、ミクログリアが集まってきて取り囲み、何らかの働きをしているらしい。
そうやって傷んだニューロンを壊したり、逆にシナプスを活性化させて、脳の働きをよくしたりするらしい。
ミクログリアの研究は、まだ始まったばかりで、これからも様々な報告が出てくるだろうが、とにかく脳の神経に大きく関わってることは、ハッキリしてきたわけだな。